福岡地方裁判所 昭和49年(つ)1号 判決 1974年8月12日
請求人 那須清信
主文
本件請求を棄却する。
理由
第一 本件請求の要旨は次のとおりである。
一 請求の趣旨
請求人は、昭和四八年七月五日付告訴状をもつて福岡高等検察庁検察官に対し、副検事渡辺勝には後記二記載の事実のような罪を犯した疑いがあるとして告訴したところ、福岡地方検察庁検察官はこれについて公訴を提起しない処分をした。しかし、請求人は、検察官の右不起訴処分には不服があるから、刑訴二六二条一項にもとづき、右事件を裁判所の審判に付することを求める。
二 被疑事実の要旨
被疑者渡辺勝は、小倉区検察庁に勤務する検察官副検事であるが、昭和四七年三月一〇日午後一時三〇分ごろ福岡県小倉警察署司法警察員から、請求人那須清信が同月八日に田中清正に対して暴行を加えたとの被疑事件について、現行犯人として逮捕された右請求人の送致を受けて受理した際、請求人が罪を犯していないことが明白であつて、留置の理由も必要もなく、したがつて請求人を直ちに釈放しなければならないのにこれをなさず、その職権を濫用して請求人を翌一一日午後〇時四五分ごろまでの間、小倉拘置支所に留置して監禁したものである。
第二当裁判所の判断
まず、本件請求の適法性を検討するのに、本件記録および取寄せにかかる本件捜査記録(以下「関係諸記録」という)によれば、請求人が、昭和四八年七月九日、福岡高等検察庁検事長あての同月五日付の告訴状をもつて、本件被疑事実の存在を主張して、渡辺勝を特別公務員職権濫用の罪(刑法一九四条)で告訴したこと、同庁検察官から事件の移送を受けた福岡地方検察庁検察官が同年九月一三日に右渡辺に対する本件被疑事実について公訴を提起しない処分をしたことは明らかである。
さらに、関係諸記録によれば、福岡地方検察庁検察官は、同日、右不起訴処分を行つた旨を記載した「処分通知書」と題する書面(葉書)を請求人がさきに自己の住居と称していた所番地あてに発送したが、「あて所に尋ねあたりません」との理由で郵便局から返送されて来たこと、その後昭和四九年六月二七日に請求人から同庁検察事務官中島芳彦に対し電話で本件についての検察官の処分結果を知らせて欲しい旨要求があつたこと、同事務官は、同庁検察官の指示により即時に右電話で請求人に対し右不起訴処分のあつたことを回答した事実が認められる。してみると、刑訴二六〇条は、検察官は告訴等のあつた事件について公訴を提起し又はこれを提起しない処分をしたときは速やかにその旨を告訴人等に通知しなければならない旨定めるが、右通知については法令上なんらの方式が定められていないから、適宜な方法によれば足りると解されるところ、本件においては、右のように請求人からの電話連絡の際とはいえ、内容的に不起訴処分のあつたことが右電話において請求人に告知された以上、右昭和四九年六月二七日の中島事務官の回答が刑訴二六〇条の通知にあたるものと解すべきである。
ところで、刑訴二六二条一項にもとづく付審判の請求は、同条二項により刑訴二六〇条の通知を受けた日から七日以内に請求書を当該公訴を提起しない処分をした検察官に差し出してしなければならないものであるところ、関係諸記録によれば、請求人の本件請求書は、右六月二七日からすでに七日を経過した同年七月五日に福岡地方検察庁検察官に到達したことが明らかであるから、本件は請求権の消滅後になされた不適法なものというほかはない。
したがつて、本件請求は、刑訴二六六条一号に従い、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。